揺れる想い~年下彼氏は小学生~㊦
「まぁね、お互いたぶん荒れてた時だし。その場限りって割り切ってたから、別にいいんだけど。でも、あんたが純平の友達だって知っちゃったから」


「……ごめん、イマイチ言ってる事が分からないんだけど」


沙希の含んだような言い方に、弘登先輩は本当に分からないと言った表情で言葉を返している。

それを聞いた沙希は、悲しそうな…それでいてホッとしたように見えた。


「そうだよね、4年も前の事だし。しかもお互い名前も知らなかったんだから、憶えてる訳ないよね」


顔と声は笑っているんだけど、その表情がどこか悲しげで。

そんな彼女を前にして、私はただ鼓動を早くさせる事しかできずにいた。


「4年前……?」


そう呟き、何かを思い出そうとする先輩。

4年前といえば、沙希が中1で先輩は中3になる。


「石橋達也って分かる?」


「石橋達也…あぁっ、同中の奴だよ」


思い出したように先輩がそう言うと、沙希は微笑を浮かべながらマキアートに口を付けた。

その名前に私は聞き覚えは無い。


「あの頃、私は達也たちのグループにいたの。毎晩遅くまで皆でつるんだりしてたんだけど、ある日いつものように達也のトコに行ったら、見た事の無い人がいたの」


先輩に語りかける沙希の言葉を、私も一緒に聞いていた。

まだ沙希と仲良くなる前の頃の話を。


「達也の友達だってことしか分からなかったけど、何だか意気投合しちゃって。気付いたら…名前も知らないその人とラブホに行ってたの」


努めて明るく話す沙希を、先輩は驚いた顔で見つめていた。

そして何やら考えている様子で、視線を彼女から離していった。
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