揺れる想い~年下彼氏は小学生~㊦
「……もしかして、それが俺?」


しばらく一点を見つめていた先輩は、意を決したようにそう尋ねた。

いつもは軽い感じの先輩が、強張った重い表情を浮かべている。


「当たり。結局名前は分からなかったけど、ちゃんと顔は覚えてたから。まぁ、初めてだったしね」


「初めて……」


そう呟き、更に先輩は困惑した表情を見せて。

本当に沙希の事を覚えてないんだって事が傍から見ていても分かった。


「勘違いしないでよ?私は、あんたに責任とって欲しいとか言ってるんじゃないから。ただ、あんたとの事を黙ったままで純平とつき合いたくないだけなの」


先輩は…どう思ったんだろうか?

親友の彼女の初めての相手が、実は自分だっただなんて。


別段咎めるような表情を見せず、沙希は先輩の言葉を待っている。


部外者である私は、とにかく純平君を含んだ3人の関係が上手くいってくれる事を祈るばかりで。

先輩との事で抱えていた大翔君への罪悪感すら忘れそうになっていた。


私が求めるのは沙希にとっての幸せで。

沙希が先輩との事をきちんとケリをつけたいのなら、それを応援したいと思う。


「……そっかぁ。とりあえず、ごめん」


しばらく黙っていた先輩はまっすぐに沙希の目を見返すと。

テーブルに当たってしまうんじゃないかってぐらい、深々と頭を下げた。


「君の事を忘れてて、ごめん。それに、軽く抱いてしまって…ホントごめん」


頭を下げたまま、先輩は沙希に向かって謝罪をしている。


その姿に、ちゃんと誠意が感じられた気がして。

私はチラッと沙希の表情を窺った。
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