揺れる想い~年下彼氏は小学生~㊦
「フリをしろって言ったの、あんたなんでしょ?」


憎悪を含んだような眼差しをまどかさんに向ける水沢。

だけど当のまどかさんは、しれっとした顔でカップのコーヒーを味わっている。


「大翔の事が好きなら、記憶の無いフリを続けろって言ったらしいじゃん。ニューヨークにさえ一緒に行っちゃえば、後は記憶が戻った事にすればいいからって」


その言葉に、私は一瞬引っ掛かった。


さっきから話に出てくるニューヨークって何……?

篠原さんと誰が一緒に行くの?


「あーあ、バレちゃったか」


ゲームが終わってしまったかのような、そんなつまらなそうな口調で。

まどかさんは悪びれることなくそう言った。


「何だよこれ……?」


明らかに戸惑った表情を浮かべ、大翔君がまどかさんに詰め寄って行く。

だけどそんな事はお構いなしに、まどかさんはコーヒーを飲み続けている。


「母さんが、篠原さんにフリをさせたの?」


「そんな恐い顔しないでよ。私はただ、由佳さんと別れる手伝いをしてあげただけよ」


思いがけず自分の名前を挙げられ、私の胸がドクンと弾んだ。

その言葉がどういう意味なのか分からず、まどかさんをただ見つめるしかなくて。


「新しい彼女ができた方が別れを切り出しやすいじゃない。それに、ニューヨークに行くならちょうどいいし」


「大翔もニューヨークに行くってホントなの?」


水沢が尋ねた相手は、大翔君だった。

苦虫を噛み潰したような表情を浮かべている彼は、その時初めてチラッと私の方を見てくれた。
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