揺れる想い~年下彼氏は小学生~㊦
「私が好きになった大翔は、クールなんだけどお母さんには明るい笑顔を見せてた」


そう語り出す水沢に、皆の視線が注がれる。


いきなりそんな話をされて驚いている大翔君と、ただ彼女の言葉を聞いている私と篠原さん。

そして、面白くなさそうな表情を見せているまどかさん。


「おばさんが亡くなってしばらくは落ち込んでたけど、野球を頑張る事で必死に立ち直ってた。だけど、おじさんがあんたと再婚した辺りから…大翔はだんだん変わっていったの。私の知ってる笑顔を見せなくなったのよ」


水沢だけが知っている、その笑顔。

そんな場合じゃないって分かってるのに、ちょっぴり彼女に嫉妬してしまう。


「おじさんが亡くなってからの大翔は、すっかり変わってしまってた。感情が無くなったっていうか、やけになったっていうか。でもね、転校してきて…6年になって変わったの。昔みたいな笑顔をするようになってきた。何でだと思う?」


そう尋ねても、まどかさんは何も答えない。

不機嫌そうな表情で、ただじっと水沢の方を見ているだけ。


そんな彼女に、水沢は勝ち誇った様な笑顔を浮かべ。

いきなり私の方へと顔を向けて来た。


「由佳さんと出会ったからよ」


「……私?」


突然の事で、それだけ言うのが精一杯だった。


だって、水沢は私の事を恨んでるはずで。

そんな大事な事を、私に教えてくれるはずが無いもの。


「すっごい悔しいんだけど、大翔のホントの笑顔を引き出せるのって由佳さんしかいないの」


そう言って笑ってくれる水沢の瞳には、ほんの少し涙が溜まっているように見えて。

私も、自然と目が潤んできていた。


あの水沢が私を認めてくれてる。

それだけで、どんなに嬉しいか。
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