揺れる想い~年下彼氏は小学生~㊦
彼女の言葉に、一瞬にして部屋の中の空気が張り詰めた。


いろいろと尋ねたい事や言いたい事があるのに。

迂闊に私達には口を挟めなさそうで。


大翔君を巻き込んだ元凶であろう2人の過去を、私達はただ黙って聞いている事しかできない。


「まだ中1のあなたを、誘惑しないでくれって言われたの。弘登の事が好きなんだって言っても、男ったらしだとか、悪女だって言われて。挙句の果てには、父に言い付けるとまで言われたわ。だから…距離を置くしかなかったのよ」


平気で人を騙すまどかさん。

自分の欲しいモノの為なら、手段を選ばない彼女。


それなのに、今私の目の前にいる人は…ひどく可哀想に見えて。

とてもじゃないけど、嘘を吐いているようには思えなかった。


「それで…急にいなくなったのかよ?」


「ニューヨークにいる兄の所に行ってたの。もちろん、私の家族にはただ留学がしたいとだけ伝えてね。そして日本に戻って来て、私は父の会社に入ったの」


そしてまどかさんは、しばらくぶりに大翔君の方へと視線を向けた。

その眼差しも、今の彼ではなくて昔の彼に向けられているようだった。


「その時の上司が、神崎主任…あなたの父親だったの」


彼女の想いも受け取るように、大翔君はじっと自分の継母を見つめている。


「そして、主任の奥さんが亡くなった葬儀の時…私はこの子に会ったのよ。『ひろと』って名前を聞いた時、運命を感じたの。どことなく似ている気もしたし」


今の容姿を比べたら、大翔君と先輩は全然似ていないように思うけど。

小1の彼と中1の時の先輩なら…どこか似ていたのかもしれない。


もしかしたら、『ひろと』という名前がそう思わせていただけなのかもしれないけれど。
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