揺れる想い~年下彼氏は小学生~㊦
「……道具の手入れしたいんだけど?」


彼女にされるがままになりながら、俺はそう声をかけた。

手は相変わらずスパイクを磨き続けている。


「ホント、野球の事になったらつれなくなるのね」


拗ねたような声を出し、まどかさんは俺から手を離した。

高貴なムスクのような香りが、俺から少し遠ざかっていく。


「道具を大切にしない奴は、いい選手になんかなれないから」


これは、前の学校の監督が教えてくれた言葉。


それから俺は、道具を大切にすることを覚え。

こうやって手入れをするようになったんだ。


「甲子園目指すなら、やっぱり私立の中学がいいんじゃないの?中高一貫の、野球部が強いトコ」


「……前にも言ったけど、俺はもう少し今のメンバーと野球がやりたいんだ。とにかく地元の中学に行って、高校に行く時にまた考えるよ」


確実に甲子園を目指すなら、まどかさんの言う事にも一理ある。

だけど俺は、やっと仲間って呼べる奴らに出会えたから。


一緒に笑い合ったり、共に涙を流したり。

そんな事ができる奴らと、もうちょっと一緒に野球がやりたいんだ。


「分かった。また気が変わったら、いつでも言って?」


そう言うと、諦めたのか彼女はソファから立ち上がった。


「お風呂は1人で入るけど、ちゃんと私のベッドに来てよ?お預けくらった分、愛してもらわないとね」


誘うようなウインクを残し、まどかさんはそのまま浴室に向かって行った。

その後ろ姿を見送り、俺は自然と溜息を漏らしていた。
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