冬うらら 1.5

 管理職としての処理能力では、副社長の方が余程仕事が速く、正確で、不機嫌な態度を取られることもなかった。

 とりあえず今のリエは、この社長宛の電話を処理しなければならなかった。

 現在、書類作業中ということもあるので、迂闊な電話を取り次ぐと、またとばっちりが来かねないのだ。

 電話の声は、女性だった。

 去年の年末くらいに、同じような内容がかかってきたことを思い出す。

 大体。

 これまで、社長宛に『家のもの』という名で電話があったのは、過去1回だけである。
 だからこそ、記憶が鮮明に残っていたのだ。

 しかも、妙な内容の電話だったのである。

 家のものだという割には、社長自宅の電話番号を知らなくて、事もあろうにリエにそれを聞こうしたのだ。

 勿論、自宅の電話番号もケイタイの番号も知っている。

 しかし、それを誰かも分からないような相手に教えるハズがなかった。

 その妙な電話が、再びやってきたのである。

「…失礼ですが、社長とはどのようなご関係でいらっしゃいますか?」

 記憶のせいで、リエはそのまま社長に電話をつながなかった。

 もしも、これが不審な電話であるというならば、書類作業というナーバスな仕事をしている社長に、爆発の火種を放り込むことにもなりかねない。

 その不機嫌の矛先が、一番近い自分に向く可能性だって高いのだ。

 本当に家族関係者であれば、ここでためらわずに返事があるはずだった。

 しかし。

 電話の向こうはためらいを見せた。

 これは。

 どう考えても、不審以外の何者でもない。

 適当に話をはぐらかして電話を切ろう、と思いかけた時、リエは信じられない返事を聞いてしまったのである。


『あ…あの………つ………妻です』


 は????
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