冬うらら 1.5

 自慢するわけではないが、リエは動揺したり取り乱したりすることが少ない女性だった。

 いつも、出来るだけ冷静に考えて判断しようと努めていたのだ。

 しかし。

 これには、驚いた。

 この電話は、妙というどころではなかったのだ。

 あの社長の。

 妻―― いわゆる、奥方と名乗る相手からの電話だったのだ。

 社長が既婚者であるというのを聞いたことは、一度もなかった。

 彼は親元を離れて、一人暮らし。
 いや、副社長と2人で生活をしているのは知っていた。

 まだ、姉とか妹とか言われたら、すんなり納得しただろう。

 社長のプライベートを、そこまで知っているワケはないのだから。

 しかし、妻となると話は別だ。

 社員の誰が、既婚者であるか未婚者であるかというのは、普通は周知の事実だ。

 特に社長となると、リエが一番側にいる仕事相手である。
 それを知らなかったという事実に、珍しくパニックに陥ってしまったのだ。

 と、とりあえず。

 社長に確認を取るのが、一番いいと思った。

 たとえ、この電話が頭のおかしな人からの悪戯電話であって、社長から『ふざけるな!』と怒鳴られようとも、大事を取って確認する必要があった。

 普通なら、ありえないと思うだろう。

 会社を統べる社長が結婚したとなると、いろんな取引先などを呼んで、大々的な結婚式などを開くものではないだろうか。

 会社でも、噂が広まるのではないだろうか。

 リエは電話の相手に待つように伝えると、社長室への内線を開いたのである。
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