冬うらら 1.5

『つなげ!』


 聞き違いかと思った。

「は?」

 慌てて、リエは受話器を耳にきちんと戻した。

 ちょっと離していたために、音を拾いそこなったのかと思ったのだ。


「いいから、つなげっつんだ!!!」


 何ですって????

 リエは―― 信じられなかった。

 しかも、話はここで終わりではない。

 呆然としたまま、電話を切り替えてしばらくした後。


 バタン!


 大きな音と共に、社長室のドアが開いたのだ。

 中から、社長が物凄い顔で飛び出してくる。

「あの…」

 どちらへ。

 最後まで聞くことは出来なかった。

 社長は、あっという間に彼女の目の前を走り抜けて、秘書室を出てすぐのエレベーターに向かうのだ。

 ドアは開け放されたままなので、その動きがはっきりと彼女から見えた。

 あっけに取られてその背中を見ていると、彼はエレベーターが途中階にあるのに気づいたようで。

 何と。

 階段の方に駆けて行ったのである。

 ここは、7階だった。

 い…。

 リエは、何度も何度もまばたきをした。

 いまのは……何なの?


 あなたの知らない世界―― だった。
< 13 / 102 >

この作品をシェア

pagetop