冬うらら 1.5
●4
 ガチャーン。

 受話器の向こうで、大きな音がした。

 メイは、その激しく乱暴な音に、思わず受話器を耳から離してしまう。

 しかし、すぐにまた耳に戻した。

「ど、どうしたの!?」

 慌てて電話の向こうに話しかけるが、反応はまったくない。

 回線自体は切れてはいないようだ。

 切れているなら、ツーツーという音がするはずなのだから。

 ということは、受話器は浮いたまま、ということである。

 ただごとではない予感がして、不安が胸を刺す。

 もしかしたら、具合が悪くなって倒れでもしたのではないかと、オロオロしてしまった。

 何度か話しかけたけれども、やはり何の反応もない。

 どうしよう!

 受話器を持ったまま、キョロキョロする。

 同時に、誰か助けてくれそうな人を探そうとしているバカな自分に気づいた。

 ここで倒れているワケではないのだから、助けてもらいようがない。

 メイは電話を切ると、鋼南電気のビルに向かって駆け出した。

 社員なら、事情が分かるかもしれないと思ったのである。

 さっきまで、どうあっても入れそうになかったビルの自動ドアの内側に、彼女は入り込んだのだ。

「いらっしゃいませ」

 すると。

 いきなり、カウンターの中の受付嬢が頭を下げるではないか。

「あ、あの…!」

 どう伝えていいか分からないが、とにかく心配が先に立っている彼女は、何とかさっきの電話で起きた出来事を言葉にしようとした。

 言葉を口にしようとした瞬間。


 ダダダダダッッ!!!!


 物凄い音が、端の方から聞こえてきたのである。

 振り返ると、そっちには階段があって。

 誰かが―― 駆け下りてきたのが見えた。

 ひるがえる、ネクタイの先。

 誰かって。

 メイは目を見開いた。

 階段を駆け下りた存在と、しっかり目が合ったのである。

 一瞬、お互い完全に動きを止めてしまった。
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