冬うらら 1.5

 チン!

 しかし、二人の間にあるエレベーターの扉が開いて、数人の社員らしき背広姿の人たちが降りてくる。

 その人たちの姿で、向こう側にいた彼が見えなくなった。

 よかった。

 メイは、その遮断のおかげで、ようやく我に返ることが出来たのだ。

 そして、強い安堵を覚えた。

 彼は、倒れたワケではなかったのだ。

 あの電話については、どういう事故が起きたか分からないけれども、カイト自身は全然元気そうだった。

 でなければ、階段を駆け下りて来たりはしな―― え?

 メイは、真っ赤になってしまった。

 すごく、変な翻訳が頭の中に現れたからである。

 何でエレベーターがあるのに、階段で駆け下りてきたのだろうかという疑問に、勝手に答えを出してしまったからだ。

 ブンブンとその翻訳を振り払った。

 ここ数日、本当に翻訳が自分に都合がよいものばかりで、逆に落とし穴のような気がしてしょうがないのだ。

 うっかり自惚れてしまいそうになる。
 そうなったら、即座に転んで痛い目を見てしまいそうな予感があった。

 そんな風に、彼女がいろんな思考にまとわりつかれたり、振り払ったりしている時。

「あの…お客様?」

 後ろから声をかけられた。

 メイは、すっかり受付嬢のことを忘れ切ってしまっていたのだ。

 いきなり飛び込んできた客が、用件も言わずに相手をシカトしていたのである。
 不審に思われないハズがない。

「あ、すみません…あの…」

 メイは、慌てて受付嬢の方に向き直った。

 しかし、これから何をどう説明すればいいのだろうか。

 カイトに何かあったかも、ということに関しては、まったくの事実無根であることが、いま証明されてしまったのだ。

 だからと言って、今更、『社長はいらっしゃいますでしょうか?』なんてことを聞くのも妙である。

 だが、このまま放置していくワケにもいかず。

 とにかく、取り繕ろえる言葉を探そうとしていた。
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