冬うらら 1.5
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なのに。
「あら?」
カウンターの内側の女性が、不思議そうな声を出した。
え?
受付嬢の視線が、メイ自身を飛び越えていることに気づいて、後ろを振り返ろうとする。
「社長…?」
その声が、カウンターから聞こえてきた瞬間。
「きゃっ!」
メイは、悲鳴をあげてしまった。
いきなり強い力が、むんずと彼女の腕を捕まえて引っ張ったからである。
転びそうになりながら、何とか体勢を立て直す。
やっと、視線を前に固定することが出来た。
そのまま、彼に引っ張られ続ける。
あ。
背中だ。
忘れようもない。
今朝、会社に見送った背中と同じものだった。
階段を駆け下りたせいか、その肩には前の方から回ってしまったネクタイのシッポが見えている。
カイトだ。
間違いない。
「あ、あの…ごめんなさい。勝手にきちゃって…」
背中に向かって、メイは一生懸命言い訳をしようとした。
決して、仕事の邪魔をしたかったワケではないのだ。
それだけは、ちゃんと彼に伝えたかった。
結婚した途端、毎日こんなことをするような女だと思われたくなったのである。
本当に、今日は特別な用事で来たのだと。
しかし、彼の背中は何も聞いちゃくれない。
さっき1階に来たままだったエレベーターに乗せられる。
イラついたような動きで、カイトは4階のボタンを押した。
小箱の中で二人きりだ。
カイトは、扉の方に顔を向けたままで黙っているので、いまどんな気持ちなのか、全然分からなかった。
どこに連れて行かれるのかも。
声をかけそびれている内に、エレベーターは3階で止まった。
彼が指定した階は4階だったハズである。
なのに、3階で止まるということは―― 誰かが乗ってくる、ということだ。
なのに。
「あら?」
カウンターの内側の女性が、不思議そうな声を出した。
え?
受付嬢の視線が、メイ自身を飛び越えていることに気づいて、後ろを振り返ろうとする。
「社長…?」
その声が、カウンターから聞こえてきた瞬間。
「きゃっ!」
メイは、悲鳴をあげてしまった。
いきなり強い力が、むんずと彼女の腕を捕まえて引っ張ったからである。
転びそうになりながら、何とか体勢を立て直す。
やっと、視線を前に固定することが出来た。
そのまま、彼に引っ張られ続ける。
あ。
背中だ。
忘れようもない。
今朝、会社に見送った背中と同じものだった。
階段を駆け下りたせいか、その肩には前の方から回ってしまったネクタイのシッポが見えている。
カイトだ。
間違いない。
「あ、あの…ごめんなさい。勝手にきちゃって…」
背中に向かって、メイは一生懸命言い訳をしようとした。
決して、仕事の邪魔をしたかったワケではないのだ。
それだけは、ちゃんと彼に伝えたかった。
結婚した途端、毎日こんなことをするような女だと思われたくなったのである。
本当に、今日は特別な用事で来たのだと。
しかし、彼の背中は何も聞いちゃくれない。
さっき1階に来たままだったエレベーターに乗せられる。
イラついたような動きで、カイトは4階のボタンを押した。
小箱の中で二人きりだ。
カイトは、扉の方に顔を向けたままで黙っているので、いまどんな気持ちなのか、全然分からなかった。
どこに連れて行かれるのかも。
声をかけそびれている内に、エレベーターは3階で止まった。
彼が指定した階は4階だったハズである。
なのに、3階で止まるということは―― 誰かが乗ってくる、ということだ。