冬うらら 1.5

 カイトもそれに気づいたのだろうか。

 はっと、身体が動いたのが分かった。

 扉が開く。

「だからさぁ…そこの…」

 そんな声が、開いた扉の向こうから聞こえてきた。

「でもよ…って、あ! 社長!」

 乗ろうとしていたのは、男性社員2人。

 入り口のところに立ちふさがるカイトを見つけるなり、声音が変わった。

 本当に、彼は社長なのだ。

 さっきの受付嬢の言葉もそうだし、今度もそうだ。

 この会社の、一番上に座っている人なのである。

 鋼南電気の会社社長としてのカイトに会ったのは、今日が初めてで。

 だから、そんな風な現実を見ると、いままで分かっていたかのように思えて、実は自分が彼の立場というものを、全然分かっていなかったような気がした。

「次のに乗れ」

 カイトが、社員に向かって言った言葉はそれだけで。

 言うなり、彼の指が「閉」のボタンを押したのが分かった。

 バタン。

 相手の反応を見るまでもなく、再びエレベーターの扉は閉ざされた。

 ああ。

 メイは、この会社に来てしまったことを、激しく後悔した。

 誰だって、恥ずかしいに決まっているではないか。

 社長が女と一緒に会社内にいた、という事実だけでも、どんな噂が立てられるか分からないのに。

 あの受付嬢には見られてしまったワケだから、もうその噂は止められないかもしれない。

 これが、仕事場でなければ別にかまわないだろう。
 二人の関係は、あくまでプライベートなことなのだから。

 けれども、ここは職場なのだ。

 勤務中に女性と会っていた―― かなり、聞こえが悪い。

 ごめんなさい。

 一回心の中で謝るのが精一杯だった。


 エレベーターは、すぐに4階についてしまったのだから。
< 17 / 102 >

この作品をシェア

pagetop