冬うらら 1.5

 まさか、ビルの中で彼女と出会えるとは思ってもみなかったので、一瞬呆然としてしまった。

 そこに、忌々しくもエレベーターが到着する。

 2人の間に、一瞬人間の壁が出来たのだ。

 クソッ。

 その人波を横切って、受付の方に歩き出す。

 視界が開けた途端、あの茶色の目はなかった。

 違う。

 受付の方を向いて、何か話しているようだった。

 だから、カイトから見えているのは、その背中だけだったのである。

 ズカズカとそっちの方に近寄っていく。

 メイが。

 胸が、バスドラムのように深くて速い音を立てる。

 メイが―― そこにいるのだ。

 その事実すら、カイトはまだ信じられずにいるのである。

 向こうを向いている彼女の腕を、ぐっと掴んだ。

 受付の女よりも、メイは自分に用があって来たはずなのである。

 だから、そっちを向いている必要などない。

 そのまま、強く引っ張った。

 そんな風に、メイへの独占欲が炸裂してはいるものの、内心ではかなりまだ気が動転している。

 どこか、ゆっくり話ができそうな場所。

 そして、誰もこない場所が必要だった。

 引っ張っている時に、後ろから彼女が何か言っているような気がしたが、いまの精神状態では、はっきり聞き取ることが出来なかった。

 こんな落ち着かない公共の空間で、彼女を他の誰かに見られるのもイヤだったのだ。

 カイトは、慌てて会社内で検索をかける。

 冷静に考えれば会社の外でもよかったのだろうが、この時の彼は、それを思いつけなかったのだ。

 か、会議室!

 頭の中に電球が光ったワケではないが、閃いたその言葉に向かって彼は歩いた。

 会議室は4階にあるのだ。

 エレベーターは、幸いさっき到着したヤツが、まだとどまっている。

 メイを引っ張ったまま、エレベーターに飛び乗った。
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