冬うらら 1.5

 バタン。

 ドアが閉まって。

 4階のボタンのランプだけが点灯している、狭い箱の中。

 2人キリになった。

 本当に。

 いま後ろにいるのは、メイだろうか。

 そんな不安がよぎって、カイトは振り返れなかった。

 あの時。

 一瞬、人波で彼女の姿が消えた。

 次に見たのは後ろ姿で、そのまま顔も見ずにここまで引っ張ってきてしまった。

 もし振り返って、そこにメイがいなかったら。

 何てことを考えるのか、この頭は。

 カイトは、いま自分の考えたことを、首ごとちょんぎって投げ捨てたくなった。

 いるに決まっているではないか、と。

 もう、何も不安に思うことなどないのだ。

 彼らは結婚したのだ。

 夫婦なのだ。

 その言葉のロープを、カイトはがっちり握りしめた。

 そして、勇気を振り絞って身体をひねろうと思ったのだ。彼女の方に。

 なのに、エレベーターは3階で止まってしまった。

 ムッ!

 カイトは、自分の短気の尾が、引きちぎれそうになったのが分かった。

 誰かが―― おそらく社員が、このエレベーターで上を目指そうと言うのである。

「だからさぁ…そこの…」

「でもよ…って、あ! 社長!」

 予想通り社員が2人、目の前に現れた。

 開発室の連中で、見覚えのある顔だ。

 くんじゃねぇ!

 ドアの真ん前に立ったまま、カイトは、慌てる2人に感情を抑えずに言った。

「次のに乗れ」

 すかさず、扉を閉める。

 驚いた2人は、カイトが邪魔でエレベーターの奥の存在には気づけなかっただろう。

 それが、最後のハプニングだった。

 ようやく、2人は4階の会議室にたどりつくことができたのだ。
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