冬うらら 1.5

01/11 Tue.-2

●6
 カイトが驚いている。

 その事実と表情がつい珍しくて、メイは彼の顔をじっと見てしまった。

 いつも不機嫌そうな顔ばかりしているので、そうでない表情を見ることが少ないせいだ。

 だから、現状も忘れて見入ってしまったのである。

「あ…」

 カイトの口から、信じられないような声がぽろっと一つこぼれ落ちて、そこでようやく彼女は我に返った。

「あのね…あの、私の記入漏れのところは直したの。あと、ここのところをカイトに埋めてもらったら、大丈夫らしいんだけど」

 ボールペンを取り出しながら、彼女は早くその作業を終えてもらおうと思った。

 カイトの仕事の邪魔にならないように、用事が済んだらすぐに出ていく気だったのである。

 具体的なやるべきことを呈示されたせいか、カイトはハッと目に力を取り戻した。

 彼女からボールペンを受け取ると、会議室の机の上で、立ったまま記入し始めてくれたのだ。

 その横顔を。

 ついつい、また見入ってしまった。

 この人と、結婚したとばかり思っていた。

 そう信じて疑っていなかった。

 しかし、現実は違ったのだ。

 まだ、彼らは他人のままで、昨日の出来事は『同棲』という言葉にすぎないのだ。

 だから余計に、今日の電話で『妻』という単語を使っていいのかどうか迷ったのである。

 自分がまだ、そういう立場ではないことが分かっていたので。

 でも、もしもこの用紙を提出しないなんてことがあったら――

 怖い考えを、思わずメイは振り払った。

 そんなことはあるはずないのだ。

 カイトは、自分を好きだと言ってくれて、彼が婚姻届も取ってきて、役所まで連れて行ってくれたのだ。

 その彼が、いま記入してくれているカイトが、もう一度その用紙を提出するのを拒むハズはないのである。

 その理屈だけをぎゅっと握りしめて、メイはじっと見ていた。

 書き終わったのか、用紙を掴んだ彼が顔を上げる。

 視線が、メイの方を見た。

「あ、それじゃあ…私、それ出しに行くから」

 彼女は、手を差し出す。

 これで用事は終わりなのだ。
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