冬うらら 1.5

「いやぁ、昨日何度かお電話を差し上げたんですが、ご不在のようで心配していたんですよ。わざわざご足労、ありがとうございました」

 記入不備の書類を押しつけられたというのに、あんなに昨日のカイトの態度はメチャクチャだったというのに、この職員は非常に物腰柔らかく応対してくれる。

 メイが、用紙を受け取りにきた時もそうだった。

 ヤマダさん、というらしい。

 電話で、彼はそう名乗ったのだ。

 カイトは、そのヤマダという職員に、不作法な手つきで書類を突き出した。

 これで文句はねーだろ。

 そんな態度だった。

 しかし、今度は突き出すなり帰る、なんてマネはしない。

 不機嫌な顔で相手を睨んだままだが、その場を動かないのだ。

 ヤマダは、書類を確認しているようだった。

 目と指先で内容を追って、それが最後のところまでたどりつく。

「はい、結構です」

 にこっと。

 まるで学校の先生だったら、『よくできました』と言いそうな笑顔で微笑むと、その書類を受理してくれたのである。

「結婚、おめでとうございます」

 その笑顔のまま、頭を下げられてしまう。

 カイトが、びくっと硬直したのが分かった。

「おめでとうございます」

 側にいた他の職員までもが、祝福の笑顔を2人に向けてくるではないか。

 その声が結構大きかったせいか、役所に来ていた一般の人たちの視線まで向けられてしまう。

「お、婚姻届ですか? おめでたいですねぇ」

 などと、近くから聞こえてきた。

 メイは。

 照れて、真っ赤になってしまった。

 いきなり、周囲の温かい視線にさらされてしまったのである。

 落ち着かないこと、この上なかった。
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