冬うらら 1.5

「結婚記念日は今日になりますね…1月11日…ああ、1ばかりで覚えやすい日でよかったですねぇ」

 ヤマダが、笑顔で畳みかけてくる。

 カイトは硬直したままだ。

 メイ同様、こういう状況に慣れていないのである。

 いきなりスポットライトが当てられて、あなたたちが主役です、というような状態なのだ。

 カイトは。

 ついに耐えられなくなったようで。

 来たときと同じように、むんずとメイの手を掴むと、役所を後にしたのだ。

 歩きながらも、後ろからにこにことした笑顔と、祝福の波動が伝わってきて、メイでさえ振り返ることが出来なかった。

 そのまま、無言で2人ずんずんと役所から歩いて逃げ、車に乗り込む。

 ドアを閉める。

 はぁ。

 2人、同時に安堵のため息をついてしまった。

 カイトの方を、視線の端で盗み見る。

 すると、向こうもそうした瞬間だったようで、ばちばちっと目が合う。

 カァ。

 2人で――赤くなってしまった。

「……送ってく」

 カイトは、いきなり忙しくなったような様子でエンジンをかける。

「あ、大丈夫…バスで帰れるから…カイトお仕事あるし」

 車中の時計を見ると、12時40分。

 いまからなら、カイトはきっと1時までに会社に戻れると思ったのだ。

 そして、車のドアを開けようとしたら。

 ばしっと。

 運転席の手が、彼女の腕を押さえるように止めるのだ。

 振り返ると、カイトがどういう表情を作ったらいいかも分からないような顔で、自分を見ていた。

「送る…」

 そんな目で。

 そんな、もどかしそうな目で見られては、断れるハズがなかった。

『でも会社が…』とか言おうと思ったのに、それさえ言えなくなってしまう。

 だから、きちんと身体の向きを前の方に直して座り直す。

 ようやく、カイトが手を離してくれた。

 よかった。

 車が走り出した時に、メイはポツリと思った。

 彼が、再提出を拒んでいたのだというのが、誤解でよかったと本当に思った。

 そして、困った。

 夫婦だというのに――― 車の中での気楽な会話一つ、見つけられないままだったのだ。
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