冬うらら 1.5

 今日は平日だ。

 だから、役所の普通の窓口が開いている。

 カイトは、メイを車から降ろすと、そのまま引っ張って自動ドアをくぐった。

 とにかく、目的に向かって突き進む。

 敵、右斜め45度、というところか。

 カウンターに、彼の手が触れる瞬間。

 誰か男が近づいてきた。

 顔は覚えていないが、あの黒い腕カバーは、記憶に残っている。

 昨日、婚姻届の処理をした男だろうか。

 かなり頭に血が上っていたために、はっきりとした記憶には刻まれていなかったのだ。

「あぁ…あなた方ですか」

 という声が、開口一番に出てくるところを見ると、やはり昨日の職員であることは間違いない。

 そういえば、こんなトロくさそうな、フニャフニャした顔だったような気がする。

 カイトの生活速度とは、生物学的に違うのかもしれない。

 それを言うなら、メイもそんなにパキパキした性格ではなかった。

 どちらかというと、この職員と同じ枠の中に入るのかもしれない。

 しかし。

 彼女は、いいのだ。

 とにかく、あのままでいいのである。

「いやぁ、昨日何度かお電話を差し上げたんですが、ご不在のようで心配していたんですよ。わざわざご足労、ありがとうございました」

 自分への印象など、気づいていないに違いない。

 にこにこと、笑顔で対応してくる。

 彼の笑顔に、受け答えをしているヒマはない。

 乱暴な手つきで書類を突き出した。

 紙が、勢いでばしゃっという音を立てる。

 昨日からのカイトの所行のせいで、その用紙はシワだらけになりつつあった。

 大事な用紙に、優しくしてやらないからだ。

 昨日は、このまま帰った。

 とにかく、用紙を渡してしまえば、それで結婚がOKだと思っていたのである。

 しかし、結果的には二度手間になってしまった。

 いくら頭に血が上っていたとはいえ、腹の立つ出来事だ。

 だから今日は、我慢してここで待ち続ける。

 今度こそ、受理される必要があった。

 これ以上、書き直しなんてごめんだったのだ。
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