冬うらら 1.5

 イライラしながら、職員のトロくさい指と目の動きを睨む。

 時々、一カ所で止まるような瞬間があれば、カイトの方がビクリとしてしまいそうだった。

「はい、結構です」

 最後までたどりついた後。

 職員の声と笑顔が、カイトを安堵させた。

 これで間違いなく、メイと結婚したのである。

 世界中に、それを認めさせたのと同じだった。

 ほっとしたのもつかの間。

「結婚、おめでとうございます」

 いきなり、温かい笑顔と声を向けられた。

 確かに、この職員はさっきまでも穏やかな感じではあったが、その色と温度が変わったようにさえ感じられたのである。

 そう。

 祝福というものだ。

 思えば。

 改めて、分かりやすい祝福を感じたのは、これが初めてだった。

 ソウマの家で何か言われたかもしれないが、あの二人の言うことなど、まともにカイトは聞いていなかった。

 とにかく、気に障ることばかりが起きるので、全身棘だらけの状態だったのである。

 シュウは、一瞬笑っただけだ。

 十分珍しい事態であったが、それ以外の反応はなかった。

 後は、まったくいつもと変わらず、である。

 こういう見ず知らずの人間に、一般論として結婚を祝福されるとは思ってもいなかったのだ。

 その波動に巻き込まれたのか、側にいた職員も「おめでとう」、と。

 周囲の、関係のない一般市民までもが、自分らを噂しているようにさえ思えた。

 背中がむずむずする。

 このままでは、『今ここに誕生した、うら若い夫婦への祝福の波動』というもので、腐らされてしまいそうだった。

 耐えられっか!

 カイトは、その落ち着かなさにめまいを覚えながら、しかし、メイの手をしっかりと握って、役所を逃げ出したのだ。
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