冬うらら 1.5
□8
 車は―― 家についてしまう。

 メイは、車を降りてしまう。

 しかし、彼女は運転席側へとぐるっと回ってきた。

 慌てて、カイトはウィンドウを下ろす。

「えっと…その」

 身体を屈めるようにして、中のカイトを覗き込む。

 何か、言葉を探しているようだった。

 彼女の性格からすると。

 きっと。

 お礼の、言葉。

 エンジンはかけたまま、カイトはその視線に吸い込まれていた。

「ありがとう…それと、今日はお仕事中にごめんなさい」

 ちょっと困った風に笑う。

 後半は余計だった。

 もしも彼女が遠慮して、あの書類を持ってこなかったら、仕事から帰ってきたカイトがどうなるか、自分で考えても容易に想像がつく。

『どうして、昼間に電話かけなかった!』

 とキレるに決まっているのでだ。

 この通りの言葉を言えたかどうかは別として。

 彼女の遠慮と、その書類に詰め込んだカイトの決意とエゴに、短気を爆発させたことだけは間違いない。

 それから、夕飯もそっちのけで、また役所へ直行である。

 当然、通常業務は終わっているから、また昨日お世話になった方に行かなければならなかっただろう。

 だから。

 メイの判断は正しかったのである。

 しかし、どうせならその前に、電話をすればよかったのだ。

 そうすれば、カイトは会社から戻ってきて、彼女を乗せ、再び役所に行って―― という行動を取れただろう。

 わざわざ寒い中、メイが一人であちこち行く必要はなかったのである。

 はっ!

 そこで、彼はあることに気づいた。
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