冬うらら 1.5

 代表電話。

 やはり、電話帳にはそれしか載っていなかった。

 喉から心臓を飛び出させんばかりに緊張しながら、ゆっくりとその数字を押す。

 一つ押すごとに、受話器を元に戻したい衝動を抑えなければならなかった。

 何て言おう。

 この場合、頭の中に巡るのは、カイトにどういう風に言おう、ということではなく、その前に立ちふさがる受付とかを、どうやってクリアしようかということだった。

 失敗した記憶ばかりがよみがえってしまう。

 1コールの後。

『はい、鋼南電気でございます』

 受付嬢が出てしまった。

「あっ…あのっ、私、家のものなんですが…カ…社長はいらっしゃいますか」

 慌てる唇で、彼女は何とかそれを言い終えることが出来た。

 考えてみれば、文法はめちゃくちゃである。

 家族のものが、『社長、いらっしゃいますでしょうか』などという発言を、するはずがないというのに。

 受話器の向こうに、一瞬沈黙があった。

『……少々お待ちくださいませ』

 電話は、保留音になった。

 ほぉ、とため息をつく。

 とりあえず、お城の門番に門を開けてもらえた気分だったのだ。

 ため息をついた直後。

 すぐに保留音は途切れた。

『お電話代わりました、秘書室です』

 電話の声はカイトではない。女性のものだった。

 また、いま門番に言った言葉を使わなければならないのだ。
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