冬うらら 1.5

 カイトの返事は、もっとぎゅっとしてくれることだった。

 ああ。

 メイは、少しだけ彼の翻訳のためのパーツを、手に入れたような気がしたのだ。

 カイトは、あまり言葉が得意ではない。

 それは分かっていた。だから、言葉に出来ないような時は、こうやって行動で表してしまうのだ、と。

 その中に、たくさんのカイトの気持ちが詰まっているのである。

 どのくらい詰まっているのかというのは、彼女にははっきり分からない。

 前例が少なすぎるのだ。

 しかし、今日のこの抱擁は、『好きだ』という気持ちがぎゅっと詰められているような気がした。

 どうでもいい相手に、彼はこんなことはしないだろうから。

 そう思うと、胸がきゅっと震えた。

「おかえり…なさい」

 もう一回、言ってしまう。

 帰ってきて嬉しいという気持ちを、今度はたくさんこめた。

 彼の腕に、そんな言葉で応えようとしたのだ。

 普通。

 夫婦という関係になる前には、恋人という期間がある。

 思いを通じ合わせるのが恋人という基準で考えると、彼らのその期間は、約半日だった。

 今日の婚姻届の遅れを加算するとしても、1日半である。

 そんな短い期間で、お互いの何を知り合えるというのだろうか。

 恋人でも夫婦でもない、同居している他人という時間はあった。

 だが、その時はあくまで他人同士に過ぎない。

 触れあうことだってほとんどなかったし、最初の数日を除けば、1日の中で一緒にいる時間など、ほとんどなかった。

 だから、夫婦という時間よりも、いまはまだ、お互いへの恋の部分を埋めていくので精一杯なのだ。

 二人は、恋が成就したばかりなのだから。

「夜ご飯は、おで……んんっっっ」


 だからまだ。


 全然通じ合えていないキスだった。
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