冬うらら 1.5

01/11 Tue.-3

□11
 昼に、メイと出会った。

 婚姻届も、その時に確実に提出した。

 もう、何の間違いもない。

 間違いもない―― というのに。

 カイトは、帰宅途中の車中で、鼓動を速くしていた。

 この乱れは、『あいつが待ってるぜ、イヤッホー!』というような、楽観的なものではなかった。

 とにかく早く帰り着いて、彼女の存在を実感したかった。

 何人たりとも、俺を邪魔するな。

 そんなオーラをガンガン飛ばしながら、彼は車を走らせた。

 幸い神様とやらは、意地悪ではなかったようで、無事に家の門をくぐることができた。

 玄関についている明かりに、少しほっとする。

 しかし、はやる気を押さえきれずに、急いでガレージに車を入れた。

 ドアを開けて車を降り、玄関を目指す。

 最短距離を直線で、早足で―― 走り出さなかっただけ理性的だったと言えなくもないが、それでも心の中は荒れ狂っている。

 だが、玄関の前でピタリと足を止めてしまった。

 なぜ、こんなにまで自分が怖がっているのかが、分からないくらいだ。

 普通は、もっと気楽に帰るべきなのだ。

 そう思ってはいても、どうしても肩に力が入ってしまう。

 ふぅ、と一つ深呼吸をしたのが精一杯。

 カイトは、覚悟を決めてドアに手をかけた。

 ガチャッ。

 板チョコレートのようなドアが開いたら。

「おかえりなさい」

 いきなり。

 声と共に、世界の明るさが一気に変わった。

 こぼれんばかりの笑顔が、カイトに向けられている。彼のためだけに。

 あまりの衝撃に、身動きさえとれなくなってしまった。

 心臓が止まってしまうかと思った。

 まるで―― お菓子の家。

 シュウと同居の味気ない家が、いきなり生クリームとチョコレートと、砂糖菓子で出来たお菓子の家になってしまった。

 いままでだって、こういう風に出迎えられた時は何度もあった。

 まだ、2人の気持ちが、ちっとも触れ合っていない頃。

 でも、それとは意味も、色も、気持ちも、何もかもが違うものなのだ。

 笑顔と言葉は、すべてカイトにだけ注がれていて、そして、触れることが許されているものだった。
< 46 / 102 >

この作品をシェア

pagetop