冬うらら 1.5

 メイは、いままでずっと、冷たい水で家事をしてきたのである。

 そういえば、最初の頃も同じことに気づいたような気がした。

 カイトが、自分でカレー皿を洗った時だったか。

 しかし、あの頃はいろんな衝撃的なことが連続して起きていたために、すかっと忘れていたのである。

 目の前の、メイに対応するので精一杯の日々だったのだから。

 クソッ。

 本当に、自分の気の回らなさが腹立たしい。

 彼女を幸せにしたいのに、こんなに冷たい手にさせてしまったのだ。

 その腹立たしさのために、もっと強く手を握って引っ張る。

 それと。

 自分だって冷たい水じゃツライだろうに、たかだか給湯設備一つ欲しいと言わない、メイにも腹立たしい。

 言えばいいだろ!

 怒ったままのカイトは、それを口に出せないまま、部屋に帰り着いた。

「フロ…入ってこい」

 だから。

 部屋に入るなり、彼女にそう言った。

 名残惜しくも、手を離してやりながら。

 熱いお風呂に入れば、きっとこの冷たい手も、すぐに温かいものに変わるだろうと思ったのだ。

「あ、カイトから先に…疲れてるでしょう?」

 なのに、メイときたら、彼の気持ちなども知らずにそんな風に言う。

 だー!!!

 カイトはまどろっこしくなって、彼女の手をもう一回掴む。そのまま、ぐいぐい引っ張る。

 目指すは、風呂場だ。

「え? あ、ホントに…私は後で……」

 言葉で抵抗するのも聞かず、カイトは彼女を脱衣所の中に突っ込むと、そのドアをバン!っと閉めた。

 ドアの。

 向こう側と、こっち側。

「早く…入れ」

 カイトは、ドアに背中をもたれさせるようにして、自分自身を重石にした。

「……はい」

 背中に―― ようやく観念したらしいメイの声が、小さな振動となって届いた。
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