冬うらら 1.5

 一緒にいたいと思った。

 けれども、こんなところでまで、一緒でなくてもいいのである。

 真っ赤になったまま、メイは慌てて服を脱いだ。

 そういえば、まだパジャマはアパートから取って来ていない。

 カイトの会社に行かなければならなかったので、大荷物にならないように、最低限の下着類だけ取ってきたのだ。

 今夜も、シャツのお世話にならなければならないだろう。

 けれども、もううっかり彼にシャツを借りていいかなんて、聞くことはできなかった。

 また、カイトがパワーショベルなマネをしかねないからだ。

 過去に、2回も引き出しの中の服を、ひっくり返されたのである。

 今夜だって、そうされるに違いなかった。

 後で借りたことを伝えようと、彼女は決めていたのだ。

 早く、あのアパートも引き払わなければならない。

 しかし、いまのメイは、そんな理性的な思考で動いていなかった。

 ただ、さっきの発言を忘れるために、違うことを考えようと努力しながらも、急いでお風呂に飛び込まなければならないのだ。

 脱衣所に置いていたゴムで髪を上げながら、メイはドキドキした身体を、ようやくお風呂場に持ち込めたのだ。

 急がなきゃ。

 カイトをあんまり待たせないようにと、彼女は大慌てでシャワーからお湯を出した。

 そうして、温度を確かめるために手を濡らそうとして―― 止まった。

 あ。

 右手に。

 魔法の呪文が、書いてあったのだ。

 普通にお風呂で洗えば、すぐに消えてしまう程度のささやかな魔法。

 でも、カイトの文字だ。

 どうしよう。

 せっかくの魔法を、今日のうちに消してしまいたくなかった。

 とりあえず、左手でシャワーヘッドを持って、温かいお湯で身体を流しながら、彼女は右手を遠くに逃がしていた。水で濡れないように。
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