冬うらら 1.5

 呆然とするばかりだった。

 彼女の言った言葉を、もう一度身体の中で反芻しようというのに、CPUにがっちりとロックがかかってしまったように出来なかった。

 しかし、事態は進展していく。

「あ、ごめんなさい…いやですよね、そんな。すみません…急いで入りますから」

 後方のドアが、そんな風に慌ててしゃべったかと思うと、ばさばさと服を脱ぐような音に変わったのである。

 キィ、ともう一つのドアが開くような音がして、そして、バタンと閉じた。

 それから、5分。

 ようやく、カイトは氷づけの仮死状態から、生き返りつつあった。

 何…だって?

 カイトは、まだドアの前。

 いろんな情報が追加で入っていたものの、それを処理するよりもCPUのロックを、解除する方が先だったのだ。

 彼女が、完全に言い終わらなかった言葉。

 おそらく。

 一緒に入りませんか?

 そう言おうとしたのだろう。言葉の流れ的には、一番自然だった。


 BOMB!!!


 理解した途端、いきなり心臓が破裂した。

 まさか、そんな申し出を彼女にされるなんて思ってもみなかったせいで、心臓が溶岩のように熱い血を送り出すのだ。

 彼女は、風呂に一緒に入らないかと誘ったのだ。

 これが平静でいられるか。

 確かに、彼らは結婚した。

 だから一緒に風呂に入ろうが、一緒のベッドで眠ろうが、誰からも文句を言われることはない。

 思い返してみれば、彼の両親もよく一緒に風呂に入っていた。

 息子であるカイトは、別にそれについて変だ、なんて思ったことなんかない。

 ということは。

 自分も、メイと一緒に風呂に入っても、別に問題なんてないのだ。

 が。

 たとえ理屈ではそうであったとしても、それを本当に自分が自然に出来るか、と言われると、まったくダメだった。

 いまの心臓の状態を見れば、一目瞭然だ。
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