冬うらら 1.5

 今度は、いきなり心臓に火がついた。

 さっきまで凍り付いていたとは思えないくらい、一気に燃え上がる。

 この気持ちは、イヤとは違う。

 そうではないのだ。

 ただ、そんなことをしたら、自分の理性がちぎれとびそうな気がするのだ。

 かなりの高い確率で。

 ちぎれ飛んでしまったら、その場所ですごいことになってしまうかもしれない。

 もしそんな真似をしたら、メイにイヤな思いをさせてしまうかもしれないのだ。

 軽蔑されるかもしれない。

 そんなこと、耐えられなかった。

 しかし。

 このままカイトが入らなければ、彼女は『やっぱりイヤだったのよね』と誤解をするだろう。

 そんな誤解もまた、彼は腹立たしいのである。

 となると。

 クソッ!

 カイトは、自分の理性にガチガチに鎖をかけながら、勇気を出してそのドアを開けた。途端、はっきりと聞こえる水音。

 脱がれた衣服は、カゴの中にちょこんと入っている。

 カイトは、ばっと視線をそらした。風呂場のスリガラスも、カゴも。

 そして、顔をそらしたまま、服を脱ぎ始めたのだ。

 できるだけはっきりと、音をさせるようにしながら。

 自分がここにいるということを、アピールしたのである。

 でないと、いきなりドアを開けて、メイに悲鳴をあげられてしまうかもしれないのだ。

 そうなれば、カイトは悪者だった。

 バサバサと服を脱ぎ捨てる。

 バックルの音が妙に反響するような気がして、カイトは顔をしかめた。

 そんなんじゃ。

 そんなんじゃ、ねーんだからな。

 ひたすら、自分に言い聞かせる。

 何度も何度も言い聞かせる。

 これは、彼女が誘ってくれたことであり、自分もイヤではないことであり。

 一緒にいるためのことであり―― とにかく、そういうことではないのだ。
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