冬うらら 1.5
●14
 きゃー!!!

 ドアが開く瞬間―― メイは、声にならない悲鳴をあげた。

 ギリギリまで往生際悪く、『まさか、そんな』と思っていたために、ついにその時が来るまで、覚悟を決めているヒマがなかったのである。

 慌てて、振り返っていた顔を、元に戻すので精一杯だった。

 お湯を止めたままのシャワーヘッドを握りしめて、メイはカチンコチンに固まってしまったのだ。

 ど、ど、ど、ど、どうしようー!!!

 サイフとパスポートをすられて、異国の見知らぬ地に立ちつくすのと、いまの気持ちとどっちがとんでもないだろうか。

 それくらい取り乱していた。

 いや、元はと言えば、自分から言い出したことである。

 後で、はっと我に返ったとしても。

 だから、カイトも入ってきたのだ。

 あんまり間が空いていたので、今更入ってくるとは思ってもみなかったのだが。

 自分から誘ったメイが、こんなに取り乱したら、彼は変に思うに違いなかった。

 背中の方で確実にドアが開いて、誰かが入ってくる足音がした。そして、ドアが閉められたのである。

 間違いなくカイトで。

 それで。

 一緒に入る気なのである。

 そ、そんなぁ。

 メイは身体を洗っている最中だ。いまはまだ、泡に助けられて全身を見られることはないだろう。

 しかし、いつかは洗い流さなければならない。

 その上、髪も洗わなければならないのだ。

 それを―― カイトの視線の目の前でやらなければならないのである。

 こんな、素肌をさらしたまま。

 後ろの気配が動く。

 ビクッッ、と反射的に震えてしまったが、彼は近付いてこなかった。

 ばしゃん!

 まるで。

 大きな魚が生け簀で跳ねるような音がした。

 後ろではない。

 横だ。

 え?

 慌ててメイが、そっちに目をやると。

 カイトが、バスタブの中にいるのが分かった。

 そうして―― 壁の方を向いているのが、分かった。
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