冬うらら 1.5

 こ。

 交代、しなきゃ。

 全部終わってしまったメイが、声をどうかけようか迷う。

 もう当初の目的のように、このままお風呂から上がればいいのかもしれない。

 そうすれば、 カイトだってゆっくりお風呂を満喫出来るのである。

「あ、あの……私、もう」

 身を縮ませたまま、メイは立ち上がると、外に向かうすりガラスのドアに手をかけた。

 ばしゃん!

 瞬間。

 また、生け簀が跳ねた。

 きゃあ!!!

 また、悲鳴を飲み込む。

 いきなり彼が大きな音を立てて動いたからだ。

 いや、いまのメイには、微かな風の音さえも幽霊の声に聞こえるだろう。

「つかれ!」

 後ろの方から声がした。

 そっと振り返ると、カイトが洗い場の前で、シャワーを持ったまま背中を向けている。

 彼の素肌の背中が、バーンと大アップだ。

 濡れた肌に、バスルームの明かりが反射している。

 その瞬間、身体がぽぉっとなった。

 更に、意識が混沌の中に沈んでしまう。

 あの、でも、そんな。

 メイは、いろいろと言おうと努力した。

 しかし、もし彼の言葉を拒否したら、今度は本当にこっちを向かれてしまいそうだ。

 メイは、オモチャの兵隊のようなカチカチの動きで、バスタブの方に向かう。

 ぱしゃん。

 湯船に、足の先を入れる音。

 彼女の場合は、小魚か。

 熱いお風呂であったことが、それで分かった。

 熱いのが好きなのかな。

 一つ、彼の好みを知ったような気がした。

 メイだったら、ちょっと水を足したいくらいだ。

 お風呂の湯を入れる時、食事とかいろいろ間に入るので、冷えないようにと、かなり熱めのお湯を入れておいたのである。

 後から追い炊きしなくてもいいようにと。

 しかし、冷める速度の方が遅かったようである。
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