冬うらら 1.5

 メイは、水を足さなかった。

 ちょっと熱かったが、我慢してつかっていた。

 理由は―― 身体を洗い終わったら、またカイトがつかりに来るからである。

 その時に、変にぬるかったら、イヤな気持ちになるんじゃないかと思ったのだ。

 彼女は。

 右手だけは、お湯につけないようにしながら、カイトがそうしていたように、視線を壁の方へと向けていた。

 洗い場では。

 やはり、大きな魚を生け簀から、網ですくうような音がしていた。

 バシャバシャ、バチャバチャ。

 どれが身体を洗っている音なのか、髪を洗っている音なのか、さっぱり聞き分けができない。

 しかし、あまりそっちの方を意識しないようにしておく。

 でないと、具体的に想像してしまいそうだったのだ。

 そんな危険な真似、出来るはずがなかった。

 さっき、彼のあの背中を見てしまっただけで、ぽぉっとなってしまったのだ。

 頭の中に、そんな映像が合成されたら大変である。

 一緒にお風呂に入るって、こういうことなのかな。

 熱い湯船のせいで、ますます真っ赤になりながら、メイはそんな風に思った。

 世界中の人が、みんなこんな緊張感で一緒にお風呂に入っているのだろうか。

 それとも、すぐに慣れてしまうのか。

 そんなことを考えていたら、自分に薄暗い影が落ちた。
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