冬うらら 1.5

 我に返った時には、もう生け簀の水音がしていなかったのだ。

 ということは、いま自分にかかっている影は―― カイトのものなのである。

 また、つかりに来たのだろう。

 その作業工程が、彼女の予想以上に速かったので、次のことを考えるヒマがなかったのだ。

 どうしようぉぉぉ。

 交代するべきなのだ。

 しかし、いまバスタブから出ると、メイは彼の目の前に身体をさらしてしまうことになる。

 もしかしたら、また視線を逸らしてくれているのかもしれないけれども、それを確認することが出来なかった。

 何しろ、すぐそばにカイトの素肌もあるのだから。

 こんな間近で明るいところで、しっかりと見てしまったら、自分がどうなってしまうか分からなかった。

 だから、身動きも取れないままだった。

 出なきゃ!!

 覚悟を決めた。

 身体は見られてしまうかもしれないけれども、きっと一瞬だ。

 急いで脱衣所まで逃げれば、本当に一瞬で済むはずだった。

 ばしゃっ。

 メイは視線をそらしたまま、身体を湯船から持ち上げようと身体を浮かしかけた。

 しかし。

 カイトの身体が動いた。

 出ようとして空いた隙間に、カイトが湯船に足をつっこんだのだ。

 彼女が逃げ出そうとするよりも、先の動きである。

 そして―― 彼の手が、もう一度、彼女を湯船に引きずり戻したのだった。


 ええー!!!???
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