冬うらら 1.5
□15
 風呂は、とにかく熱かった。

 カイトは、横を向いたままバスタブにつかっていたが、身動き一つとれないまま、釜ゆでの刑を続けていたのだ。

 水を入れようかとも一瞬思ったのだが、メイは熱い風呂が好きなのかも、という疑惑のせいで勝手にそんなことが出来なかったのである。

 洗い場の方では、シャワーの音が始まったり途切れたり、泡の立つ音がしたり―― 挙げ句、何かのはずみに彼女がもらす、呼吸音さえも伝わってきた。

 妙に反響する、この空間がいけないのだ。

 いま、彼女がどういう状態なのか、リアルに右脳が構築してしまいそうだった。

 身体を流している音も、髪を洗っているだろう音も、はっきりと聞き分けたのだ。

 風呂場で。

 どういう会話を交わすのが自然かさえ、カイトは分からなかった。

 普通なら、世間話でもするのか。こういう場合は。

 さりげない感じで、今日のことや仕事のことなんかを話すのだろう。

 しかし、カイトの今日の仕事など書類作業だ。

 こんな話をしたって、メイが喜ぶはずもなかった。

 第一、彼自身がちっとも楽しくなかったのだから。

 開発の仕事だったらいいのか。

 いろいろ考えてはみたけれども、自分が彼女を喜ばせるような話題を持っていないことに気づくだけだった。

 言葉では、到底喜ばせられないのである。

 じゃあ、一体何なら――

 ちらり、と横目を使おうとしたが、白い太腿が視界に入っただけで、カイトはまた視線をそらした。

 バスルームは、無用に明るいものだ。

 その明るさの中で、水滴を弾いているような白い身体を、どうして彼が直視できようか。

 しかも、こんな盗み見るような卑怯なマネ。

 カイトは、面白くもない風呂場の壁を見ることになった。

 ただ、水滴がこびりついて光っているだけの壁だ。
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