冬うらら 1.5
□
そうしている内に、洗い場の水音が止まった。
洗うという仕事は、終わったのだろうか。
確認の視線を送ることは出来ない。
「あ、あの……私、もう」
しかし、こともあろうに、彼女の声は出口へと向いていた。
足音が、そっちに向かっているのも分かる。
バスルームを出ようと言うのだ。
バカ野郎!
ざばん、とカイトは慌てて湯船から上がった。
どう考えても、彼女がお風呂で温まったとは思えない。
少なくとも、さっきまで洗い場にいたのだ。
シャワーを使ってはいただろうが、冷えているに違いないのに。
遠慮しているのだ。
彼がバスタブを占領しているので、どかすのが悪いと思ったか―― まあ、その辺りだろう。
これでは、カイトは彼女に、カゼをひかせるために入ってきたかのようだった。
一瞬。
網膜に彼女の白い後ろ姿が、くっきりと焼き付いた。
驚いた余り、そっちの方を見てしまったのである。
瞬時にして血流が狂って、目の前が真っ暗になりそうだった。
いわゆる立ちくらみというヤツだ。
だが、それを踏みとどまって、視線をばっとそらした。
「つかれ!」
そう怒鳴るように言うと、彼女がさっきまで使っていた洗い場に背中を向けて陣取る。
カイトだって身体や頭を洗うのだ。ということは、バスタブは空っぽなのである。
何の問題も、あるはずがなかった。
もしも、彼女がまだ出ていこうとするならば、力ずくでもバスタブにつからせようとさえ思った。
そんなにカイトに遠慮するというのなら、このまま彼が出ていったって構わなかったのだ。
しかし、メイはそれ以上の抵抗はしなかった。
ゆっくりとした動きで、後ろを横切って行ったのである。
彼女の歩く影だけを、カイトは視線の端で追いかけた。
ぱしゃん。
小魚が、跳ねた。
そうしている内に、洗い場の水音が止まった。
洗うという仕事は、終わったのだろうか。
確認の視線を送ることは出来ない。
「あ、あの……私、もう」
しかし、こともあろうに、彼女の声は出口へと向いていた。
足音が、そっちに向かっているのも分かる。
バスルームを出ようと言うのだ。
バカ野郎!
ざばん、とカイトは慌てて湯船から上がった。
どう考えても、彼女がお風呂で温まったとは思えない。
少なくとも、さっきまで洗い場にいたのだ。
シャワーを使ってはいただろうが、冷えているに違いないのに。
遠慮しているのだ。
彼がバスタブを占領しているので、どかすのが悪いと思ったか―― まあ、その辺りだろう。
これでは、カイトは彼女に、カゼをひかせるために入ってきたかのようだった。
一瞬。
網膜に彼女の白い後ろ姿が、くっきりと焼き付いた。
驚いた余り、そっちの方を見てしまったのである。
瞬時にして血流が狂って、目の前が真っ暗になりそうだった。
いわゆる立ちくらみというヤツだ。
だが、それを踏みとどまって、視線をばっとそらした。
「つかれ!」
そう怒鳴るように言うと、彼女がさっきまで使っていた洗い場に背中を向けて陣取る。
カイトだって身体や頭を洗うのだ。ということは、バスタブは空っぽなのである。
何の問題も、あるはずがなかった。
もしも、彼女がまだ出ていこうとするならば、力ずくでもバスタブにつからせようとさえ思った。
そんなにカイトに遠慮するというのなら、このまま彼が出ていったって構わなかったのだ。
しかし、メイはそれ以上の抵抗はしなかった。
ゆっくりとした動きで、後ろを横切って行ったのである。
彼女の歩く影だけを、カイトは視線の端で追いかけた。
ぱしゃん。
小魚が、跳ねた。