冬うらら 1.5
●
「メイ…」
掠れた声で、髪の中にささやかれる。
すごく、気持ちのこもった呼ばれ方だ。
聞いているだけで、ドキドキがどんどん凄くなっていくような。
すぅっと。
まるで引き潮にさらわれる船のオモチャのように、メイは彼の声に連れて行かれそうになった。
ゆらゆらと。
湯の水面がゆらめいている。
伏せかけた彼女の目の中に―― そんな風にゆらめく自分の腕が映った。
あっ!
それが、我に返るボタンだった。
無意識に悲鳴を上げながら、彼女は自分の両手をお湯から出した。
とっさに、どっちの手だったか忘れたのだ。
だから、両手をぱっと自分の方を向けて開く。
右手だった。
間違いない。
左手を湯の中に捨てながら、メイはその字を眺めた。
濡れてはいたが、消えていなかったのだ。
カイトが、昼間残してくれた大事な呪文だ。
「よかったぁ…」
それを小さく呟く。本当にほっとしたのである。
今、自分がどういう状態にあるかなんて、この瞬間はスカッと抜け落ちていた。
だから、いきなり身体に回されていたカイトの右手が外れたのに気づかなかったのだ。
その大きな手のひらは、呪文が記されている右手首をがしっと掴んだのである。
「え、あ?」
メイは捕まれている自分の手と、カイトの表情を見ようと、肩越しに振り返ろうとした。
しかし、余りに角度が急なので、いまの状態では彼の顎を見つけるのが精一杯だ。
「…んだ、これ?」
すごく、怪訝そうな声だ。
きっと顔を見なくても、彼が眉を顰めているだろうことが手に取るように分かるくらい。
「メイ…」
掠れた声で、髪の中にささやかれる。
すごく、気持ちのこもった呼ばれ方だ。
聞いているだけで、ドキドキがどんどん凄くなっていくような。
すぅっと。
まるで引き潮にさらわれる船のオモチャのように、メイは彼の声に連れて行かれそうになった。
ゆらゆらと。
湯の水面がゆらめいている。
伏せかけた彼女の目の中に―― そんな風にゆらめく自分の腕が映った。
あっ!
それが、我に返るボタンだった。
無意識に悲鳴を上げながら、彼女は自分の両手をお湯から出した。
とっさに、どっちの手だったか忘れたのだ。
だから、両手をぱっと自分の方を向けて開く。
右手だった。
間違いない。
左手を湯の中に捨てながら、メイはその字を眺めた。
濡れてはいたが、消えていなかったのだ。
カイトが、昼間残してくれた大事な呪文だ。
「よかったぁ…」
それを小さく呟く。本当にほっとしたのである。
今、自分がどういう状態にあるかなんて、この瞬間はスカッと抜け落ちていた。
だから、いきなり身体に回されていたカイトの右手が外れたのに気づかなかったのだ。
その大きな手のひらは、呪文が記されている右手首をがしっと掴んだのである。
「え、あ?」
メイは捕まれている自分の手と、カイトの表情を見ようと、肩越しに振り返ろうとした。
しかし、余りに角度が急なので、いまの状態では彼の顎を見つけるのが精一杯だ。
「…んだ、これ?」
すごく、怪訝そうな声だ。
きっと顔を見なくても、彼が眉を顰めているだろうことが手に取るように分かるくらい。