冬うらら 1.5

 あぁ??

 心臓が―― 止まるかと思った。

 何故、秘書がそんなことを知っているのか。

 シュウがしゃべるはずがない。

 ハルコか。

 そんな疑惑が、胸をついた。

 彼女は、この会社の秘書だったのだ。
 それに、いまの秘書を推薦したのも彼女なのである。
 何らかの交流があってもおかしくなかった。

 ムカムカ。

 結婚という事実を人に知られたのが、無用に腹立たしい。

 秘密にしたいというワケではない。

 しかし、興味半分でつつかれるのだけはごめんだった。

「仕事とは関係ねぇだろ」

 棘の含まれる声で、カイトは怒りを伝えた。

 この件については、触れられたくなかったのだ。

 秘書にわざわざ教える必要もなかった。

 女はおしゃべりなのだ。

 一人に知られたら、会社中に広まること間違いナシである。

『そう…ですか。いえ…いま、社長の奥さんとおっしゃる方からお電話が入ってまして…ちょっとご確認が必要かと思いまして』


 なにぃー!!!???


 心臓が吹っ飛びそうな発言だった。

 カイトの奥さんなんて、この世にたった一人だ。

 メイ以外の何者でもない。

 どうして、彼女が会社に電話を。

 そういえば、ケイタイ番号を教えていなかった。

 何かあったら、会社の代表電話に電話するしかないだろう。

 仕事中に電話をしてくるほどの大事が起きたのか。

 カイトは目を白黒させたまま、パニックに陥っていた。
 いろんな予測が、勝手に頭の中を走り抜けるのである。

『何か切羽詰まったようは声の女性でしたが…では、会議中とでもお伝えてして、お切りしましょうか?』

 現実は進む。

 秘書は、気を利かせてそんなことを言った。

 バカ野郎!

「つなげ!」

 それこそカイトの方が、切羽詰まった声になりながら、電話に向かって怒鳴った。

 もう、書類もボールペンも放り出している。

『は?』

 怪訝な秘書の声。


「いいから、つなげっつんだ!!!」
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