冬うらら 1.5

 本当は、違ったのだ。

 この身体のどこかに、カイトの名前が刻まれているようで嬉しかったのに。

 もう一度眺めると、また、ため息が出てしまった。

 顎が。

 メイは、びっくりした。

 カイトの顎が、自分の顔の横からにょきっと出てきたのである。

 彼女の肩越しに、顔をのぞき込もうとするかのように。

 首を竦めるようにしてそっちを見ると、ほんの間近に彼の目がある。

 あのグレイの目が、じっと自分をのぞき込むのだ。

 どうかしたのか?

 そんな目だった。

 気落ちに気づかれたのだろう。

 怪訝そうで、少し心配な目の色だ。

 たかが手のひらの文字を消しただけで、彼女がこんなにも落ち込むとは思っていなかっただろうし、それが普通だった。

 言い逃れを、させてくれないような目だ。

 彼女が、さっき手のひらに隠していたヒミツの匂いを、かぎとられてしまったのである。

「あの…ね」

 メイは、視線をそらしながらぽそっと呟いた。

「ホントは…えっと……嬉しかった…の」

 白状する。

 でないと、ずっとカイトに見つめられ続けるのではないのかと思ったのだ。

「カイトの字が書いてあるのが…嬉しかったの。何か…私にしるしが残ってるみたいで…」

 そこまでしか言えなかった。

 やっぱり、だんだん恥ずかしくなってきたのだ。
< 71 / 102 >

この作品をシェア

pagetop