冬うらら 1.5

 心の内側を聞かせてしまった上に、手のひらの字も消されてしまった。

 ドクンっ。

 そんな強い鼓動を感じた。

 一瞬、自分の心臓が暴走したのかと思った。

 違う。

 メイは、びっくりした。

 彼が肩越しに顔を前に突き出していたため、彼女の背中とカイトの胸がぴったりくっついていたのだ。

 だから、さっきのは―― カイトの心音。

 身体ごしに伝わるくらいの、強い鼓動だったのである。

「んな…字より……」

 カイトの声が、不安定な響きを持っているように感じた。

 微かに乱れたような呼吸の下から、声を出そうとしているような。

 右手が、もう一度捕まれた。

 きゅっと強い握力を感じる。ドクン、ともう一度背中で心音がした。

 引っ張られる。

 右腕を持っていかれる。

「メ…イ……」

 苦しそうな声が、持って行かれた腕のすぐそばから聞こえた。

 濡れた腕に吐息がかかる。

 ゾクッ。


 熱い湯の中なのに、背筋が冷たくなって―― 今度は、間違いなく自分の鼓動が高く鳴った。
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