冬うらら 1.5

 何だと?

 これには驚いた。

 彼にしてみれば、いいことをした気持ちになっていたというのに、ひどく残念そうな反応だったのである。

 そんなはずがないと、カイトは彼女の顔を見ようと首を突き出した。

 この角度だと、メイの肩を乗り越えるしか方法はないからだ。

 気配に気づいたのか、向こうも彼の方を向く。

 非常に窮屈で、間近な角度で目が合った。

 驚いてはいたけれども、メイの表情には、さっき彼が予想したような落胆の影があったのだ。

 何でだ。

 いまの自分の行為が、どうして彼女を落胆させたのか、ちっとも分からなかった。

 だから、じっと覗き込んで心を探そうとした。

 ちゃんと理解したかったのだ。

「あの…ね」

 視線が逃げる。

 そうして、恥ずかしそうに洗い立ての唇を開いた。

「ホントは…えっと……嬉しかった…の」

 はぁ??????

 続いた言葉を聞いたが、カイトにはちっとも分からなかった。

 一体何が嬉しかったというのか。

 手の汚れを落としたことが嬉しかったのだろうか。

 しかし、さっきの落胆の反応とは、食い違うような気がする。

 先走る予測を押さえつけて、次の言葉を待った。

「カイトの字が書いてあるのが…嬉しかったの。何か…私にしるしが残ってるみたいで…」

 すると。

 なんと。

 そんなことを、言い出すではないか。

 カイトは絶句した。

 あの落書きを、彼女は嬉しかったというのである。

 とにかく、ケイタイ番号を教えずにはいられなかったカイトが、とっさに彼女の手を捕まえて書いた落書きが、嬉しくて。

 まるで。

 そう、まるで―― 今まで大事にしていたかのように。
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