冬うらら 1.5

『私にしるしが残ってるみたいで』

 シルシ。

 カイトが、彼女に刻んだ文字。

 そんなものを後生大事にしていたのだ。

 だから、消されたくなかったのである。

 早く言え!

 カイトはそう怒鳴りそうになった。

 だが、もし素直に言われた時に、自分がそれを消さずにいられたかどうかという話になると。

 多分答えは、どっちにしろ消した、というところだろう。

 確かに彼女が、たかがカイトの文字を、ここまで大事にしてくれていたことは嬉しい。

 しかし、こんな文字よりも、いまここにカイト本人がいるではないか。

 それが理不尽だった。

 本人がいるなら、そんなシルシよりも本人をもっと見ればいいのである。

 彼は、もう一度彼女の腕を捕まえて引っ張った。

「んな…字より……」

 ぐっとひっぱった腕に唇を寄せる。

 もっと別のしるしだって、カイトはつけることが出来るのだ。

 そんなに欲しいなら、いくらだって残してやることが出来る。

 腕を。

「えっ…」

 メイが、ビクッと手を震わせたが逃がさなかった。

 腕を―― 強く、吸った。
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