冬うらら 1.5

 唇を、そっと離す。

 お湯の中で上気していた肌でもよく分かるくらい、赤い跡が残っていた。

 カイトの唇に残っているのは、柔らかく濡れた腕の感触。

 これも。

 間違いなく、しるしというものだ。

 腕を離してやると、メイはその跡を見つめているようだった。

「それだったら……洗っても消えねぇ」

 ぼそっと。

 彼は、そういうマヌケなフォローをするので精一杯だった。

 汚い字がよくて、それがダメということはない。

 理屈ではそうだ。

 しかし、勢いでしてしまったものの、カイトは彼女の反応が気がかりだった。

 また、落胆のため息をつかれてしまうのではないだろうかと思ったのだ。

「あ…」

 ため息はなかった。

 しかし、メイはお湯の中にいるというのに、更に首を赤くしたのである。

 カァッと。

 ゴムで髪を上げているせいで、その変化がはっきりと見て取れた。

 ズクン。

 胸に強く刺さったものが、危険信号を伝える。

 いつも彼女の反応は不意打ちだ。

 不安になったカイトの予想を遙かに高く飛び越えて、彼の心臓を台無しにしようとするのである。

 猛烈に強く抱きしめたい衝動が、ガンガンと追い炊きされてしまう。

 そして―― 我慢できなかった。
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