冬うらら 1.5
●18
 いきなり、カイトがいなくなってしまうものだから、メイは驚いた。

 驚いた上に、バスタブにしがみつかなければならなかった。

 今までずっと、彼に背中を支えてもらっていた形だったのだ。

 その支えが、不意になくなってしまったのである。

 さっきの勢いを覚えている水面が、まだ激しく波打っていた。

 脱衣所の方で、ガタガタやっている音がする。

 どうやら、もう彼のお風呂時間は終わりらしい。

 どうして?

 メイにしてみれば驚くばかりだ。

 首筋に唇を埋められた時、指先までしびれた。

 抱きしめられた強い腕に、どうにかなってしまいそうだったのだ。

 しかし、そんな途中でいきなりザバン、である。

 いや、そのまま続けられたとしても困るのだが。

 ここはバスルームで、明るくて、既に二人とも何も身につけていない、という無防備のカタマリだったのだから。

 何が。

 何がいけなかったのだろうか、と考えてみたけれども、別に彼女が原因であるような出来事は見あたらなかった。

 というころは、単なる気まぐれだろうか。

 しゃべらないカイトの気持ちを、きちんと掴めるようになるまで、まだまだたくさんの時間が必要だった。

 けど。

 メイは、そっと自分の腕を見た。

 肘と手首の真ん中くらいのところに、赤い跡が残っていた。

 カイトの唇が残した跡だった。

 彼の文字が消えてしまって、寂しい思いをしている彼女に、そんなしるしをつけた男。

 確かに、これなら洗っても消えないだろう。

 恥ずかしくて、嬉しかった。

 穏やかになった水面の中で、彼女は何度もその跡を見つめ直した。

 カイトの唇が、こんな風に当たったんだ―― そう予測してしまう。

 その映像を想像しそうになって、慌ててメイはそれを追い払った。

 彼が目を閉じて、腕に唇を寄せて。

 キャー!!!!!

 追い払おうとしたのに、また妄想が押し寄せて、彼女はお風呂の中で暴れた。
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