冬うらら 1.5

 こんなことをやっている場合ではなかった。

 カイトが、先にお風呂をあがってしまったのである。

 何か大きな問題が起きたとは思いにくいので大丈夫だろうが、やはり心配ではあったのだ。

 メイも、湯船から出た。

 くらっとめまいがする。

 立ちくらみだ。

 思えば、あんな熱い風呂に長い間つかっていたのである、たちくらみがしても当然だった。

 あら?

 洗い場のところでクラクラっときて、メイは壁に手をついてこらえた。

 真っ暗な目の前が、赤や黄色に点滅する。

 そのままこらえようとしたのだが。


 ガタガシャーン!


 支えきれなくなって膝を崩す。

 巻き込んだのは、シャンプー類の小さな棚。

 痛みは全然なかった。というか、それどころではなかった。

 座り込んで、血が全身に回りきるまで、おとなしくしているしかなかったのだ。


「メイ!」


 しかし。

 その音は、外まで伝わったのだろうか。

 ためらいのない音が、バタンとすりガラスのドアを開けて名前を呼ぶ。

 カイトだ。

 その頃には、ようやくめまいも取れてきたので、彼女は顔を上げた。

 パジャマ姿のカイトが、そこにいた。

「あ、ごめんなさ…ちょっとたちくら……」

 メイは、大丈夫なことをアピールしようと笑顔を作る。

 けれども、最後まで言うまでもなく、一度カイトがばっと身体を翻す。

 しかし、一瞬だけだった。

 次に戻ってきたカイトは、手にバスタオルを持っていて。

 それで、彼女をくるんでくれたかと思うと。

「きゃあっ!」

 驚いた。

 いきなり、視界が一回転したのだ。また、めまいでもしたのかと思った。

 しかし、目眩ではなかった。

 彼女は―― カイトに抱きかかえられていたのだ。
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