冬うらら 1.5

『ごめんなさい…お仕事中に』

 電話は―― 間違いなく、メイの声だった。

 うっかり妙な返事をして、電話を切られずに済んでよかったと、心底カイトはほっとした。

 しかし、心配はまだ山積みだ。

 電話の理由を、確認していなからである。

 すごく不安そうな声と、悪そうに謝る声が胸を締め付ける。

 公衆電話らしい。

 受話器の向こうから、車が走り抜けるような音がいくつも拾えた。

 外に出ているのだろう。

 一体、何が起きたのか。

 言いづらそうに、続きを切り出さない彼女のおかげで、カイトは自分の首を絞め続けるのだ。

 まさか、道に迷ったのか!?

 過去の恐ろしい記憶が、プレイバックする。

 彼女を失うかもしれないという恐怖に、心臓を掴まれたあの日のことが、鮮やかによみがえってしまうのだ。

 同時に、別の予想も頭を持ち上げる。

 やっぱり結婚には自信がなくなった、とか言い出すのではないだろうかと。

 いきなり足元に火をつけられてしまったような、焦りと苛立ちに取り巻かれる。

「いまどこだ?」

 そんな不安を悟られないようにするのが、精一杯の声にしかならない。

 この、こみ上げてくる気持ちは、電話の声では払拭されないのだ。

『あ、あの…いま、実は会社の近くにいるんです…その、お昼休み…時間、ありますか?』

 遠慮がちな、そんな声を聞いた瞬間。


 ガタン! バタッ! ダダダッッッ!!!!


 カイトは。


 受話器を投げ捨てて、社長室を飛び出していた。
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