冬うらら 1.5

 ア然。

 こんなにまでも、言葉の疎通がないと誤解になるものなのか。

 あんなに彼のことを理解しようとしたのに、結局は見事な空回りであったことを、ここではっきりと分かってしまったのである。

「バッ…」

 カイトは、眉を跳ね上げた。

 しかし、それをぐっとこらえてくれる。

「カイト…」

 もうめまいなんかしない身体を、ゆっくりとベッドから起こす。

 胸を隠しているバスタオルを、押さえるようにしながら。

「バカ…野郎……ちゃんと、言え」

 ベッドに膝で乗り上がるようにして、彼が近づいてくる。

 そして、苦しそうな声でぎゅうっと抱きしめてくれた。

 すごく、強い腕で。

 パジャマの布に、ぎゅっと顔を押しつけられる。

 その身体に腕を回す。

 背中の布地をきゅっと掴んだ。

「カイトも……ちゃんと…言って」

 こんなにまでも、分からないもの同士なのである。

 たかがお風呂の好み一つ分からずに、見事に失敗してしまったのだ。

 ちょっと言葉を交わせば、すぐに解決した出来事なのに。

「好きなものとか、いろいろ…ちゃんと、教えて…」

 全部、知りたかった。

 全部教えて欲しかった。

 いまどう思っていて、どういう気持ちなのか。

 少しずつだって構わないから、言葉で教えて欲しかったのだ。

 なのに。

 一度身体を離したカイトに、熱い目でじっと見つめられた後、また無言で強く抱きしめられた。

「メ…イ…」

 言われた言葉は、それだけ。

 後は、全部強い力だけだった。
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