冬うらら 1.5

 どうして、お互いこんな誤解をしてしまったのか。

 ただ。

 ただ単に、あの風呂が熱かっただけなのだ。

 彼らの好みや希望はそっちのけで、ただ熱かっただけなのである。

 メイの好みだと思って、水を足さなかったカイト。
 カイトの好みだと思って、水を足さなかったメイ。

 一生懸命相手を探る余り、まったくもってお互い見当はずれのことをしていたのだ。

 たかが、わずかな言葉が足りないだけで。

 どちらかが、一言聞けば済むことだった。

 言えよ!

 そうなると、カイト心の中が一気に攻撃姿勢に入る。

 熱い風呂がつらかったなら、ちゃんと言えばよかったのだ。

 そうすれば、こんなことにはならなかっただろう。

 と、いきなり相手への要求が突っ走った。

 たかが風呂の温度くらい、遠慮する必要なんかないのだ。

「バッ…」

 怒鳴りそうになった。

 それに気づいて、慌てて止める。

「カイト…」

 もうめまいの方は大丈夫なのか、メイがゆっくりとベッドから起き上がってきた。

 その身体を。

「バカ…野郎……ちゃんと、言え」

 ぎゅっと抱きしめる。

 結婚したのだから、もう何の遠慮もいらないのだ。

 勿論、その前から遠慮しなくていいと思っていた。

 しかし、今は遠慮する必要の方がないのだ。

 夫婦って、そういう関係じゃねぇのかよ。

 よく知りもしないクセに、カイトはそう思った。

 だから、思い切り彼女は、自分に甘えてきていいのだ。

 もっと身体を預けるように、寄りかかって欲しかった。

 おまけに、この時のカイトは、棚の上に上がっていた。

 本人はそれにまったく気づいていなかったけれども、メイに言い当てられる。

「カイトも……ちゃんと…言って」

 そう。

 カイトは、自分がお湯の温度について言及しなかったことを、棚の上に上げていたのだ。

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