冬うらら 1.5
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しかし、彼にしてみればそれは遠慮ではなかった。
彼女が熱い風呂が好きなのなら、別に自分はどうでもよかったのだ。
メイが、それで幸せだと言うのならば。
そして、また考えないのだ。
相手も、いま自分が思ったようなことを考えていたのであって、遠慮しているわけではないということを。
お互い相手を大事にし合っている―― それにうまく気づけないでいるカイトは、やはり一方的な要求ばかりを彼女に押しつけてしまうのだ。
「好きなものとか、いろいろ…ちゃんと、教えて…」
そんな気持ちに気づいているのか、メイは、日頃重い彼の口をこじ開けようとするのである。
確かにカイトは、おしゃべりというワケではなかった。
しかし、仕事上必要な言葉はしゃべるし、取引の時なんかは交渉を自分のペースに持ってくるために、攻撃的にしゃべり続けることだってある。
そんな彼なのに、メイの前でだけは、口にロックがかかったように重くなるのだ。
しゃべりたくないワケではない。
うまく、言葉を探せないのだ。
こんな気持ちになったのはこれが初めてだ、というような荒れ狂う感じとか熱い感じとかが、波のように何度も押し寄せてくるために、言葉が機能しないのである。
そして―― こんな綺麗じゃない言葉しか出てこないのでは、彼女を幸せにできないとも思っていた。
だから、余計に口が動かないのである。
けれども、いま彼女は、カイトにしゃべって欲しいと思っているのだ。
苦手だけれども、その願いに答えてやりたかった。
一言でもいいから。
『好きなものとか、いろいろ…』
メイは、そう言った。
カイトの好きなもの。
そんなにたくさんはない。ほんの一握り。
プログラムとバイクとチキンカレーと。
いや、そんなどこにでも転がっているようなものじゃない。
スペシャルでデラックスな、たった一つだけのもの。
それが、カイトの中にはあった。
「メ…イ…」
それが―― 彼女の問いに対する、精一杯の答えだった。
しかし、彼にしてみればそれは遠慮ではなかった。
彼女が熱い風呂が好きなのなら、別に自分はどうでもよかったのだ。
メイが、それで幸せだと言うのならば。
そして、また考えないのだ。
相手も、いま自分が思ったようなことを考えていたのであって、遠慮しているわけではないということを。
お互い相手を大事にし合っている―― それにうまく気づけないでいるカイトは、やはり一方的な要求ばかりを彼女に押しつけてしまうのだ。
「好きなものとか、いろいろ…ちゃんと、教えて…」
そんな気持ちに気づいているのか、メイは、日頃重い彼の口をこじ開けようとするのである。
確かにカイトは、おしゃべりというワケではなかった。
しかし、仕事上必要な言葉はしゃべるし、取引の時なんかは交渉を自分のペースに持ってくるために、攻撃的にしゃべり続けることだってある。
そんな彼なのに、メイの前でだけは、口にロックがかかったように重くなるのだ。
しゃべりたくないワケではない。
うまく、言葉を探せないのだ。
こんな気持ちになったのはこれが初めてだ、というような荒れ狂う感じとか熱い感じとかが、波のように何度も押し寄せてくるために、言葉が機能しないのである。
そして―― こんな綺麗じゃない言葉しか出てこないのでは、彼女を幸せにできないとも思っていた。
だから、余計に口が動かないのである。
けれども、いま彼女は、カイトにしゃべって欲しいと思っているのだ。
苦手だけれども、その願いに答えてやりたかった。
一言でもいいから。
『好きなものとか、いろいろ…』
メイは、そう言った。
カイトの好きなもの。
そんなにたくさんはない。ほんの一握り。
プログラムとバイクとチキンカレーと。
いや、そんなどこにでも転がっているようなものじゃない。
スペシャルでデラックスな、たった一つだけのもの。
それが、カイトの中にはあった。
「メ…イ…」
それが―― 彼女の問いに対する、精一杯の答えだった。