愛かわらずな毎日が。

香織が結婚する。

母親になる。


「いつかは、そうなれたらいいと思うけどね」なんて。

凌くんとの未来を話してくれたことがあった。

そのときは単純に、いいなぁ、なんて言葉を口にしたけど。


夢を叶えたら、香織は。


「香織は、……会社、」

「間宮さーん。お電話ですよーっ。内線です」


「…………」

香織に確認しておきたかったのに、森下に邪魔されてしまった。


「えーっ。私?」


「はい。福元部長から」


「へっ!?」


ふっ…、福元さんっ?


思いもよらない人からの連絡に心臓がドクンと跳びはねた。


え。なんだろう。

なにかあったのかな。


慌てて席を立ち森下に駆け寄ると、受話器を奪い取ってコホンと小さく咳払いをする。


「は、はい。間宮です」


『あ。お疲れ様』


「おっ、お疲れ様です。めずらしいですねっ。
昼間、会社にいるなんて」

会話を盗み聞きしようとしているのか、なかなか側を離れようとしない森下をシッシッと手で追い払った。


『忘れ物を取りに戻ったんだけど』


「忘れ物、ですか?」


『うん。……あぁ、えっと。そこに居るってことは、もう食べてるってことだよね』


「………え?」

福元さんの言葉で、半分以上たいらげたコンビニ弁当に視線を移した。


『一緒にランチでも、って思ったんだけど』


「えっ!?……だっ、だったら、もっと早く連絡くれたら、」


『ごめん、ごめん。………あ。電話だ。またあとでかけるよ』

福元さんはそう言ったかと思うと、すぐに受話器を置いてしまった。

私は、ツーッ、ツーッと耳元で響く音を遠ざけながらため息をつき、静かに受話器を置いた。

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