愛かわらずな毎日が。
「あ。ほら、また」
来客用の湯呑みを洗う私の横で、香織が小さなクロワッサンをほおばりながら苦笑いする。
「……え?」
「ため息。お昼からずっとだよ」
「………だって、」
「電話、掛かってこなかったから?」
「………うん」
頷いた私を見てフッと息を漏らした香織は、給湯室の小さな冷蔵庫からパックの野菜ジュースを取り出すと、首を傾げ、
「飲む?」
と、それを私の顔の前で軽く揺らした。
「……ううん。いい」
首を横に振ると、香織はプスッとストローをさし、チューチューと音を立てて野菜ジュースを飲んだ。
昼食を取ってから二時間も経っていないのに、小腹が空いて胃がムカムカするとかで、少し早めにおやつの時間にしたんだとか。
小さなクロワッサンの入ったジップ付きのバッグに手を伸ばした香織は、
「彼氏と同じ職場ってだけで、うらやましいって思うんだけど」
そう言って唇を尖らせたあと、目を細めて私を見た。
「でも。今の状況って、遠距離恋愛してるのと大して変わらなくない?」
思わず口にしそうになった言葉を慌ててのみ込んだ。
実際に遠距離恋愛中である香織の前で言う言葉ではない。
香織のことをすぐそばで見てきたからこそ。
「前に香織が言ってた、『足りない』っていうやつが。ちょっとだけ、わかったかもしれない」
「ん?足りない?」
「うん。足りない」
今の私には、「福元さん」が足りないのだ。