愛かわらずな毎日が。

「悪いけど、これ。頼んだよ」

田辺部長の席まで行くと、数枚の用紙が挟まっている黒いクリップボードを渡された。

見出しには「備品在庫管理表」と書かれている。


「………あ。……はい」

クリップボードに挟んである用紙をペラペラとめくった私は、田辺部長に会釈すると、部長に気づかれないように小さく息を吐き出した。


うちの部署には1年に4回、それぞれの部署にストックしてある事務用品などの数量をチェックするという雑務がある。

今月がその確認月で、私の当番の月でもあった。


給湯室を覗くと、一体何個目のクロワッサンになるのだろうか、香織がまだ口をモゴモゴと動かしていた。


「備品の在庫チェックに行ってくる。
何かあったら内線かけて。営業部の部屋に居るから」

クリップボードをヒラヒラさせてそう言うと、目を丸くした香織。

しばらく考え込んでから野菜ジュースで口の中の物を流し込み、

「わかった。いってらっしゃい」

と言って口角を上げた。


香織が驚くのも無理はない。

営業部の人たちは備品管理がいい加減だから、チェックするのにも時間がかかる。

そのため、チェックを行う誰もが営業部を一番最後にもってくる。


「面倒な部署は最後に」なんて流れが出来上がっているのだ。


香織は、

「福元さん、居てくれるといいね」

と付け足すと、目を細めて笑った。


そう。

面倒な部署をわざわざ一番にした理由はそこにある。

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